Ashish Vaswani et al. (2017) “Attention Is All You Need” NeurIPS 2017 より引用し,一部改変
機械学習や自然言語処理の分野で大きな注目を浴びているTransformerモデル。
その中でも、モデルの性能を支える重要な要素の一つが「Positional Embedding」です。
この記事では、Positional Embeddingの基本的な概念からその役割、具体的な例を用いて詳しく解説します。
例えば、詩や文章の順序情報をどのように保持するのかを学ぶことで、Transformerモデルの動作原理がより一層クリアになるでしょう。
TransformerにおけるPositional Embeddingとは?
Transformerモデルは、自然言語処理の分野で非常に高い性能を発揮するモデルです。
しかし、その内部構造を理解するのは難しいかもしれません。
特に重要な要素の一つが「Positional Embedding」です。
Embeddingとは何か?
まず、「Embedding」という用語を説明します。
Embeddingは、単語や文字を数値ベクトル(数字のリスト)に変換する技術です。
これにより、コンピュータが言語の意味を理解しやすくなります。
自然言語処理の基礎:埋め込み表現(Embeddings)とは何か? | デイリーライフAI (daily-life-ai.com)
Positional Embeddingの定義と目的
Transformerでは、入力される単語の順序情報が重要です。
しかし、単語自体のベクトルだけでは順序を表現できません。
Positional Encodingは、各単語に対応する位置情報をサインおよびコサイン関数を用いて固定的に追加することで、モデルが単語の並び順を認識できるようにします。
また、位置情報を学習する方法として「Positional Embedding」も存在し、こちらは学習可能なパラメータとして位置情報をエンコードします。
Positional Embeddingの役割と必要性を解説
役割
自然言語処理では、単語の順序が意味を大きく左右します。
例えば、「私は犬を見た」と「犬は私を見た」では、全く異なる意味になります。
Positional Embeddingは、こうした順序情報を保持する役割を果たします。
必要性
従来のRNN(リカレントニューラルネットワーク)やLSTM(長短期記憶ネットワーク)は、順序情報を自然に扱うことができます。
しかし、Transformerは並列処理を行うため、順序情報が失われやすいです。
Positional Embeddingは、この欠点を補い、モデルが正確に文脈を理解できるようにします。
具体例で学ぶPositional Embeddingと他の手法との比較
具体例1: 言語モデルの例
例えば、文章の中で「猫が飛び込んだ。犬が吠えた。」という2つの文があるとします。
順序情報がなければ、モデルは文のどの単語が先に登場したのかを判断できず、文の意味を正しく理解できません。
Positional Embeddingは、各単語の位置情報を保持することで、これらの文の順序を認識します。
具体例2: 詩の例
詩のように、単語の並びが非常に重要な場合を考えてみましょう。
「美しい花が咲いた」と「花が咲いた美しい」というように、単語の順序が異なると意味が変わってしまいます。
Positional Embeddingは、この違いを理解するのに役立ちます。
他のEmbedding手法との比較
Transformerでは、固定のSin/Cos関数を使用したPositional Embeddingが一般的です。
しかし、学習によって位置情報を取得するLearned Positional Embeddingも存在します。
それぞれの利点と欠点を見てみましょう。
- 固定のPositional Embedding:
- 利点: 固定のPositional Embeddingは計算が早く、実装がシンプルです。
- 欠点: 柔軟性に欠ける。
- Learned Positional Embedding:
- 利点: データに基づいて最適な位置情報を学習できる。
- 欠点: 計算コストが高く、モデルが複雑になる。
Static vs Dynamic Embedding
Static Embeddingは学習前に固定され、Dynamic Embeddingは文脈に応じて変化します。
- Static Embedding:
- 利点: 一度学習すれば、様々なタスクに再利用可能。
- 欠点: 文脈の変化に対応できない。
- Dynamic Embedding:
- 利点: 文脈に応じて柔軟に対応できる。
- 欠点: 計算コストが高くなる。
まとめ
Transformerモデルの中核を成すPositional Embeddingについて、その基本概念から具体例、他のEmbedding手法との比較までを詳しく解説しました。
Positional Embeddingは、モデルが単語の順序情報を理解する上で非常に重要な役割を果たします。
これを理解することで、Transformerの動作原理がよりクリアになり、自然言語処理の深い理解につながるでしょう。
(Reference)
Ashish Vaswani et al. (2017) “Attention Is All You Need” NeurIPS 2017
「Attention Is All You Need」論文では、Positional Encodingが使用されていますが、Positional Embeddingも別の方法として存在し、それぞれに利点と欠点があります。
- Positional Encoding: 固定されたサインおよびコサイン関数を使用して位置情報をエンコードする方法。固定的で事前に定義された関数に基づく。
- Positional Embedding: 学習可能なパラメータとして位置情報をエンコードする方法。トレーニングデータに基づいて最適化される。
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