AIを活用した病気の診断やスクリーニングでは、「診断の正確さ」をどのように評価するかが非常に重要です。
その際に使われる代表的な指標が「適合率(Precision)」と「再現率(Recall)」です。
「適合率と再現率って何が違うの?」
「医療AIを導入する場合、どちらを優先して評価すべきか?」
このような疑問を持つ方も多いのではないでしょうか?
本記事では、医療AIの活用を考えている医療従事者向けに、初心者でも直感的に理解できるよう、具体例を交えながらわかりやすく解説します。
適合率(Precision)とは?
適合率の定義と計算方法
適合率(Precision)とは、「AIが『陽性(病気あり)』と判断した中で実際に陽性であった割合」を示す指標です。
計算式は以下の通りです。
\[ \text{適合率(Precision)} = \frac{TP}{TP + FP} \]
ここで、
- TP(True Positive / 真陽性)
AIが正しく陽性と判断した数 - FP(False Positive / 偽陽性)
実際は陰性だがAIが誤って陽性と判断した数
適合率の具体例:がんの診断AI
例:あるがん診断AIの適合率
- AIが「がん」と判定した患者数(TP + FP)
100人 - そのうち本当にがんだった患者数(TP)
80人 - 適合率=80 / 100=80%
適合率80%の意味
→ 「AIががんと判定した100人のうち、20人は実際には健康で誤診だった(False Positive)」
適合率を高めることで、誤って病気と診断されるケース(False Positive)を減らせます。
ただし、その分、病気の見逃し(False Negative)が増える可能性があるため、再現率とのバランスを考慮することが重要です。
\[
\begin{array}{c|c|c}
& \text{AIが陽性と判定} & \text{AIが陰性と判定} \\ \hline
\text{実際に陽性} & TP(真陽性) & FN(偽陰性) \\ \hline
\text{実際に陰性} & FP(偽陽性) & TN(真陰性)
\end{array}
\]
再現率(Recall)とは?
再現率の定義と計算方法
再現率(Recall)とは、「実際に陽性(病気あり)の人のうち、AIが正しく『陽性』と判断できた割合」を示す指標です。
計算式は以下の通りです。
\[ \text{再現率(Recall)} = \frac{TP}{TP + FN} \]
ここで、
- TP(True Positive / 真陽性)
AIが正しく陽性と判断した数 - FN(False Negative / 偽陰性)
病気があるのにAIが誤って陰性と判断した数(見逃し)
再現率の具体例:がん検診
例:あるがん診断AIの再現率
- 実際にがん患者だった人(TP + FN)
100人 - AIが正しく「がん」と判定した人(TP)
90人 - 再現率=90 / 100=90%
再現率90%の意味
→ 「本当にがん患者だった100人のうち、90人はAIにより正しく診断され、10人が見逃された(False Negative)」
適合率 vs 再現率:どちらを重視すべきか?
適合率を重視 | 再現率を重視 | |
---|---|---|
目的 | 誤診(偽陽性)を減らす | 見逃し(偽陰性)を減らす |
具体例 | がん診断の精密検査 | がんのスクリーニング検査 |
トレードオフ | False Positiveを減らすとFalse Negativeが増える可能性 | False Negativeを減らすとFalse Positiveが増える可能性 |
初学者向け!適合率と再現率を直感的に理解するポイント
① 適合率と再現率の違いを簡単に言うと?
- 適合率(Precision)=「AIの陽性判定がどれだけ信頼できるか?」
- 再現率(Recall)=「本当に陽性の人をどれだけ逃さず検出できるか?」
② 適合率と再現率のトレードオフ
適合率と再現率は一般にトレードオフの関係にあります。
適合率を高めようとすると再現率が低下し、再現率を高めようとすると適合率が低下する傾向があります。
ただし、モデルの性能を全体的に向上させることで、両方を改善することも可能です。
③ バランスを取る指標「F1スコア」
F1スコアは適合率と再現率の調和平均を表し、両方の指標がバランスよく高いときに大きな値になります。
適合率と再現率のバランスが悪い(片方が極端に低い)と、F1スコアも低くなります。
\[ \text{F1スコア} = 2 \times \frac{\text{適合率} \times \text{再現率}}{\text{適合率} + \text{再現率}} \]
まとめ
適合率と再現率は、AIの診断精度を評価する上で欠かせない指標です。
- 適合率を重視する場合
誤診を減らしたい(精密検査など) - 再現率を重視する場合
見逃しを防ぎたい(がん検診など)
医療AIを導入する際は、どちらの指標が重要かを理解し、適切なバランスを見極めることが大切です!
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