AIを医療分野で役立てたいと考えている医療従事者の方も増えていますが、一般的なAIモデルでは専門的な知識を十分に活用しきれないこともあります。
そこで有効なのが、特定の領域に最適化する「ドメイン特化」の手法です。
この記事では、簡単にできる「プロンプトエンジニアリング」から、労力をかけてしっかり学習させる方法まで、医療分野向け大規模言語モデルの特化手法について、初学者でも理解しやすいように解説します。
手軽に始める:プロンプトエンジニアリングで医療情報に適した回答を引き出す
「プロンプトエンジニアリング」とは、AIに与えるプロンプトを工夫することで、必要な情報を得やすくする方法です。
例えば、「風邪の症状を教えてください」と聞くよりも、「10歳の子どもが風邪の症状を示しています。考えられる原因や対応方法を教えてください」といった詳細を追加することで、AIがより的確に医療に沿った回答を生成しやすくなります。
- 利点
AIモデルの内部構造や判断基準(重み)を変更せずに使えるため、時間や費用をかけずに簡単に医療情報に対応させることが可能です。 - 医療分野での活用例
診断や対応法のアドバイス、症例ごとの応対ガイドなど
医療従事者が医療用語や具体的な症例情報を含めてプロンプトを工夫するだけで、簡単にAIの医療分野での応用度を高めることができます。
LLMにおけるプロンプティング完全ガイド:初心者から上級者までのステップバイステップ | デイリーライフAI
最新の医療情報もキャッチ!RAGによる情報検索との組み合わせ
「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」は、AIが回答を生成する際に、外部の情報源(インターネットやデータベース)を検索し、その内容に基づいて回答を生成する手法です。
通常、AIは学習時点の情報しか持っていないため、最新の医学情報や新しい治療ガイドラインには対応できませんが、RAGを用いると、AIが質問に答えるときに最新情報を取得し、回答に組み込むことができます。
例えば、「最新のインフルエンザ治療ガイドラインについて教えてください」と質問した場合、RAGでは信頼できる最新情報を取り込みながら回答を生成します。
- 利点
最新の知見に基づいた信頼性の高い回答が得られるため、日々更新される医療情報にも対応可能です。 - 医療分野での活用例
最新のガイドラインの確認、新しい薬の情報提供、最近の研究データを反映した回答など
医療分野では情報の更新が早いため、RAGは非常に有効な方法です。
医療従事者にとって、変化するガイドラインや新薬情報を反映したAI回答は実践的な価値があります。
初心者でもわかるRAG(Retrieval Augmented Generation)とは?医療分野での活用例も紹介 | デイリーライフAI
医療分野のための特化モデル構築手法:Instruction Tuningからフルスクラッチ学習まで
AIを医療分野にさらに深く適応させるためには、プロンプトの工夫やRAGに加え、AIモデル自体を医療に最適化させる「再調整」手法もあります。
ここでは、具体的に「Instruction Tuning(インストラクション・チューニング)」「継続事前学習」、そして「フルスクラッチ事前学習」の3つの方法をご紹介します。
- Instruction Tuning(インストラクション・チューニング)
- 概要
Instruction Tuningは、モデルが特定の指示に基づいて回答を生成できるように調整する方法です。
AIモデルに医療分野の特定タスクや具体的な指示(インストラクション)を学習させることにより、医療従事者が必要とする情報形式に近い応答が得られやすくなります。 - 利点
医療分野で必要な特定の形式に応じた回答(例えば、診療レポート形式、疾患ごとのガイドなど)を提供することができます。 - 医療分野での活用例
カルテに基づく症例解説、治療法の選択肢を説明、患者の症状に応じた対応法など
- 概要
- 継続事前学習
- 概要
すでに学習されたベースモデルに医療関連のデータを追加で学習させ、医療分野の知識を深める手法です。
この際、過去の知識が消える可能性(Catastrophic Forgetting)や、特定のデータに偏りすぎるリスクに注意が必要です。 - 利点
医療の専門知識を深く学ばせることができ、より的確な医療情報を提供できます。 - 医療分野での活用例
患者のカルテ要約、診断補助、疾患の具体的な説明や予測をサポートするAI応答など
- 概要
- フルスクラッチ事前学習
- 概要
AIモデルを医療分野にゼロから特化させ、大量の医療文献や一般的な医学情報を含むデータを用いて学習する手法です。
この方法により、医療知識に完全に特化したモデルが構築され、非常に高コストであるものの、専門性の高い応答が可能になります。 - 利点
医療分野に完全に特化したモデルが得られ、専門性の高い応答が可能になります。 - 医療分野での活用例
専門的な診断支援、希少疾患の診断補助、論文執筆や症例報告書の自動生成など
- 概要
まとめ
医療分野でAIモデル(LLM)を活用するためには、コストや目的に応じてさまざまな「ドメイン特化」手法が選べます。
- 低コストで簡単に医療分野に対応させる
プロンプトエンジニアリング - 最新情報を反映した医療知識が必要な場合
RAG(情報検索機能の組み合わせ) - 特定の出力形式や専門知識に特化させたい場合
Instruction Tuningや継続事前学習 - 医療分野に完全に最適化した高精度モデルが必要な場合
フルスクラッチ事前学習
AIの特化手法をうまく使い分けることで、医療現場でもより高いレベルでAIを活用できるようになります。
まずは手軽なプロンプトエンジニアリングから試し、ニーズや予算に応じて他の方法も視野に入れてみてください。
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