医療AIに潜む偏りとは?LLM(大規模言語モデル)が持つ社会的バイアスとその対策

医療用のロボットAIが、多様な患者を示すシンボルと共にバイアスの概念に向き合うシンプルなイラスト AI
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AIは医療の現場で診断支援や患者さんとのコミュニケーションに利用されることが増えていきます。
AIの一種である大規模言語モデル(LLM)には、診断や患者さんとのコミュニケーションに影響を与えかねない「社会的バイアス」と呼ばれる偏りが含まれていることがあり、この偏りは医療の公平性や信頼性を損ねるリスクがあります。
本記事では、社会的バイアスの基本から、AIにおける具体的な偏りのリスクや医療現場での活用時に知っておきたいバイアス軽減策について解説します。
AIの医療応用におけるリスクを把握し、対策の視点を身に付けましょう。


社会的バイアスとは?AIにおける偏りのリスク

AIの一種である大規模言語モデル(LLM)は、インターネット上の膨大なテキストデータを基に、言葉や知識を「学習」しています。
この学習過程において、特定のグループ(例えば人種、性別、年齢など)や考え方に対する「偏り」が含まれやすく、これが「社会的バイアス」と呼ばれます。

社会的バイアスの2種類

  • 明示的なバイアス:
    人が自覚的に持つ偏見で、特定の性別や人種などに対して公然と表明される偏りです。
    例えば、特定の国の人が「○○な性格だ」と決めつけるような偏見がこれに当たります。
  • 潜在的なバイアス:
    無意識のうちに私たちの思考や行動に影響する固定観念で、「無自覚な偏り」とも言えます。
    例えば、ある性別に特定の職業が向いていると考えがちな固定観念も潜在的なバイアスの一例です。

こうしたバイアスは気づかないうちに医療現場での診断や対応に影響することがあり、AIがそれを学習してしまうと偏った診断や対応をするリスクが生まれます。

LLMがもつ社会的バイアスの例と、医療現場での影響

医療現場でAIを活用する際、LLMが持つ社会的バイアスが誤解や不公平を生む原因になることがあります。
具体的な例を挙げ、どのような場面で注意が必要か解説します。

  1. 攻撃的・侮辱的な表現のリスク
    LLMは学習元のデータに含まれる攻撃的な表現を模倣し、患者対応において不適切な言葉を発するリスクがあります。
  2. 固定観念の表現
    特定の職業を性別に結びつけるなどの固定観念を学習し、多様性を尊重しない表現をすることがあります。
  3. 言語・方言の違いによる性能差
    標準的な英語や日本語には対応できますが、特定の方言を誤判定しやすく、異なる文化的背景の患者との円滑なコミュニケーションを妨げる恐れがあります。
  4. 誤った判断や評価のリスク
    性別や人種による偏見が学習されると、AIが特定の集団を不公平に評価し、診断に偏りが生じる可能性があります。

LLMのバイアスを軽減するための4つの手法

AIのバイアスを完全に取り除くことは難しいですが、リスクを抑えるための手法がいくつか存在します。
ただし、性別による職業比率や疾病発症リスクなど、実社会の統計的な傾向を反映する側面もあり、潜在的バイアスの完全な除去には限界がある場合もあります。
そのため、AIが生成する出力が医療現場でどのように影響するかを踏まえ、適切な対策を講じることが重要です
ここでは、具体的な対策について解説します。
バイアスを低減するためには、データの前処理による偏りの緩和や、学習時に偏見を補正するデータの追加推論時のフィルタリング設定、そして出力後の内容チェックが行われます。

  1. 前処理
    データの整理と偏りの削減、データ拡張
  2. 学習中の調整
    バイアス軽減のためのデータ追加と強化、ファインチューニング、強化学習
  3. 推論中の調整
    AIの発言内容を調整、フィルター設定
  4. 後処理
    AI出力の確認と調整

こうした手法により、AIの公平な応答を促進します。


まとめ

LLMが持つ社会的バイアスは、医療現場における公平性や診断の信頼性に影響を与える可能性があります。
医療従事者はバイアスのリスクを把握し、前処理・学習調整・推論調整・後処理といった手法を活用することで、患者さんに公平な対応が提供できるよう対策を講じることが重要です。

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