医療データにも活用する自然言語処理: WordPieceとSentencePieceの基礎解説

自然言語処理 AI
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医療現場で扱うデータの中には、膨大な量の文章データがあります。
例えば、診療記録や医療論文などを効率よく分析するために、自然言語処理(NLP: Natural Language Processing)は大いに役立ちます。
自然言語処理では、コンピュータが文章を理解できる形にする「トークン化」という技術が基本となります。
この記事では、WordPieceとSentencePieceという2つのトークン化手法を取り上げ、医療データの処理にどのように役立つかを初学者向けにわかりやすく説明します。


WordPieceとは?BPEとの違いを簡単解説

まず、トークン化の基本的な概念を理解するために、単語をどうやって小さな単位(サブワード)に分けるかを考えてみましょう。
例えば、「冷蔵庫」という単語がありますが、これを「冷」「蔵」「庫」といった具合に小さな意味のある単位に分割して処理します。
こうすることで、未知の単語や長い複合語でも部分的に対応できるようになります。

WordPieceの基本的な仕組み

WordPieceは、サブワードの作成において「頻度が低い文字の組み合わせ」を単純に統合するのではなく、条件付き確率に基づいて最適な分割を行います。
たとえば、「インフルエンザ」という言葉が新しく出現した場合、WordPieceは頻繁に出現する「イン」や「フル」のような一般的なサブワードに分割します。
条件付き確率を利用して最も適切な単位を選び、効率的に処理を進めることが特徴です。

Byte Pair Encoding (BPE) 入門:トークン分割の基礎と応用 | デイリーライフAI (daily-life-ai.com)

BPEとの違い

BPE(Byte Pair Encoding)という手法もトークン化でよく使われますが、WordPieceとの違いは、「頻繁に使われる文字ペア」を統合するかどうかです。
BPEは、頻繁に共起する文字ペアやサブワードを統合していくアルゴリズムです。
例えば、「en」や「ion」などのよく出現する文字の組み合わせが次第に一つのトークンとして扱われるようになります。
一方、WordPieceは条件付き確率を元に分割を決めるため、新しい言葉や専門用語にも柔軟に対応できる特徴があります。

医療分野での利点

医療分野では、日々新しい用語や略語が生まれます。
例えば、「COVID-19」という言葉が出現した際、WordPieceはこれを「CO」「VID」「-19」のように分割して処理します。
このように、WordPieceは新しい専門用語や複雑な医学用語に柔軟に対応できるため、診療記録や論文などで大いに役立ちます

具体例
例えば「抗ウイルス薬」という言葉は、WordPieceによって「抗」「ウイルス」「薬」といった具合にサブワードに分割され、新しい言葉が出てきても適切に処理できるのが強みです。

SentencePieceの仕組みと医療データでの利用可能性

SentencePieceは、テキストをサブワードに分割するもう一つの方法です。
他の手法と異なるのは、形態素解析(文を単語に分割する処理)を必要としない点です。
つまり、事前に「単語」を明確に区切ることなく、文字レベルで処理を行います。
このため、特に言語による制約が少なく、多言語対応や特殊な文字列にも柔軟に対応できるのが特徴です。

SentencePieceの基本的な仕組み

SentencePieceでは、テキストをそのまま分割して処理し、単語の境界を明示することなくトークンを生成します。
さらに、SentencePieceは、BPEモデルUnigramモデルの2つのアルゴリズムを選択できます。
BPEは頻出する文字やサブワードを段階的に結合していくのに対し、Unigramモデルはすでに定義されたサブワードの集合から最適なサブセットを選びます。
これにより、医療データのような専門用語が多い場合、Unigramモデルはより効率的なトークン化を実現できます。

医療分野での利点

医療データでは、異なる言語が混ざったテキストを処理することがよくあります。
例えば、論文の中では「患者」という日本語の単語が使われる一方で、「COVID-19」などの英語の専門用語が同時に登場することがあります。
このような多言語混在のデータに対して、SentencePieceは非常に強力です。
さらに、形態素解析が不要なため、特殊な表記やスペルミスにも柔軟に対応します。

具体例
医療論文で「肺炎(Pneumonia)」という言葉が日本語と英語で混在している場合でも、SentencePieceは両方の言語に対応できるため、効率的なトークン化が可能です。

使用例

SentencePieceは、特に多言語対応が必要な医療データに適しており、T5やALBERTといった大規模な自然言語処理モデルで使用されています。
これらのモデルを使うことで、例えば医療論文の要約や、多言語間での患者記録の検索を効率化することができます。


医療現場で役立つトークン化手法の選び方

WordPieceの利点

WordPieceは、新しい医療用語や複雑な専門用語に強く、未知の単語でも部分的に処理できるのが大きな利点です。
例えば、最新の疾患名や薬剤名が出現しても、WordPieceはその単語を意味のある小さな単位に分割することができます。
このため、診療記録や医療論文など、専門性が高く、新しい単語が頻繁に登場するデータに適しています

具体例
新しい抗がん剤の名前が登場しても、WordPieceはその薬剤名を適切にトークン化し、後続の処理に役立てます。

SentencePieceの利点

SentencePieceは、言語の違いや表記のゆらぎがあるデータでも柔軟に対応できるため、多言語対応のデータを扱う場合に最適です。
また、形態素解析を必要としないため、スペルミスや略語が頻出するデータでも強力に機能します。
医療データにおける異なる言語や表現の多様性をうまく処理できるのが最大の強みです。

具体例
患者記録の中で、「ペイン(痛み)」という単語が英語とカタカナで混在している場合でも、SentencePieceはそれを適切に処理できます。

どちらを選ぶべきか?

  • 新しい専門用語や略語が多く登場するデータ
    → WordPiece
    (特に条件付き確率を使って新しい専門用語を効率的に処理します)
  • 多言語対応やスペルミス、表記のゆらぎが問題となるデータ
    → SentencePiece
    (SentencePieceは特にUnigramモデルを利用することで、スペルミスや多様な表記に柔軟に対応できます

これらの手法を理解し、目的に応じて使い分けることで、医療データをより効率的に処理できます。


まとめ

医療分野での自然言語処理には、データを効率よく処理するために適切なトークン化手法を選ぶことが重要です。
WordPieceは新しい専門用語や複雑な言葉に対応でき、特に専門的なデータ解析に向いています。
一方、SentencePieceは多言語データや異なる表記に対して柔軟性を発揮しますが、どちらの手法も基本的に多言語データや新しい単語に対応できる柔軟性を備えています。
医療データの特性に応じてこれらの手法を使い分けることで、より正確な分析と効率的な処理が可能となります。自然言語処理を活用し、より良い医療サービスの提供に繋げていきましょう。

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