AIが医療の現場で活用される中、診断や治療計画をサポートするために、AIの推論精度をどのように向上させるかが大きな課題となっています。
特に、AIが答えを導く際の推論プロセスが、診断の正確さに大きく影響を与えます。
本記事では、AIの推論精度を高めるための代表的な手法であるSelf-Consistencyに加え、思考の枝分かれを使って最適な答えを見つけ出すTree of Thoughts(ToT)についても紹介します。
これらの手法を理解することで、AIがどのようにしてより正確な診断や治療提案を行うか、その仕組みが見えてきます。
LLMの推論精度を向上させるSelf-Consistencyとは?
LLM(大規模言語モデル)は、人間が話す言葉や文章を理解し、推論するためのAIです。
医療の現場では、こうしたAIが患者の症状や検査結果をもとに診断支援を行うことが期待されています。
しかし、AIが行う推論が常に正確なわけではなく、1つの推論経路に依存すると、誤った結論に至ることもあります。
Self-Consistencyは、この問題を解決するために導入された手法です。
Self-Consistencyでは、AIが同じ問題に対して複数回の推論を行い、それぞれ独立した推論経路を生成します。
その後、AIは最も頻繁に出現する解答(多数決)を採用し、信頼性を高めます。
具体例
例えば、患者が「発熱」と「腹痛」の症状を訴えているとします。
AIが1つの推論経路だけを考慮した場合、それが「腸炎」という結論に達するかもしれません。
しかし、その結論が必ずしも正しいとは限りません。
Self-Consistencyでは、AIは「腸炎」の他に「急性虫垂炎」「尿路感染症」「腎盂腎炎」など複数の診断パスを生成し、それぞれの理由や根拠を比較します。
その結果、最も頻繁に出現する「急性虫垂炎」が診断として選ばれるかもしれません。
このように、Self-ConsistencyはAIに複数の推論パスを作らせ、最も信頼できる結果を選ぶことで、診断の正確さを向上させる効果があります。
Greedy DecodingとSelf-Consistencyの違いとその課題
AIが診断を行う際、次にどの選択肢を選ぶかが非常に重要です。
この選択のプロセスは「デコーディング(解読)」と呼ばれ、さまざまな手法があります。
中でも一般的なのがGreedy Decodingです。
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Greedy Decodingとは、AIが次に来る選択肢の中で「最も確率が高いもの」を逐次選び続ける方法です。
たとえば、患者の症状を見たAIが「発熱→腸炎」と、最も確率の高い選択肢を順に選んで診断を導く手法です。
しかし、この手法には欠点があります。
最初に選んだ選択が間違っている場合、それ以降の推論もすべてその影響を受け、最終的に誤った結論に至る可能性が高くなるのです。
Self-Consistencyは、このGreedy Decodingの問題を解決するために作られました。
Self-Consistencyは、1つの推論に依存せず、複数の推論経路を生成してそれぞれの答えを比較し、一番信頼性の高い答えを選びます。
これにより、AIが1つの道筋に縛られることなく、より正確な診断が可能になります。
具体例
患者が「疲労感」と「咳」の症状を訴えた場合、Greedy Decodingを使用すると、AIは最も確率の高い「風邪」という診断を即座に選ぶかもしれません。
しかし、Self-Consistencyを使用すれば、AIは「風邪」だけでなく「肺炎」「インフルエンザ」「気管支炎」など他の可能性も同時に検討し、それぞれの推論結果を集めます。
その結果、複数の推論が「インフルエンザ」と一致すれば、最も信頼できる診断として選ばれるのです。
Chain of Thought (CoT) と Tree of Thoughts (ToT) の比較解説
さらにAIの推論能力を高めるために使われるのが、Chain of Thought(CoT)という手法です。
CoTは、AIに単に結果を出させるのではなく、その結果に至るまでの推論の過程を明示させます。
これにより、AIは複雑な問題にも対応できるようになり、推論の透明性が増します。
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Self-Consistencyは、このCoTをさらに強化した形で機能します。
CoTによって生成された複数の推論経路を比較し、一番信頼できる解答を選ぶことで、推論の正確性が向上します。

Shunyu Yao et al.(2023), “Tree of Thoughts: Deliberate Problem Solving with Large Language Models”より引用
一方、もう一つの有力な手法がTree of Thoughts(ToT)です。
ToTは、AIが推論を進める際に「木構造」のように思考を分岐させ、各選択肢を並行して検討する方法です。
AIは各ステップで複数の分岐を評価し、それぞれの分岐点で最適な推論パスを選択して進みます。
これにより、特に戦略的思考が必要な問題に対して、より深い推論が可能になります。
具体例
医療における診断の場面で、患者が「激しい頭痛」と「視覚異常」を訴えた場合、AIはまず「片頭痛」「脳出血」「脳腫瘍」など複数の診断候補を考慮します。
CoTでは、AIがそれぞれの診断に至る過程を詳細に説明しますが、Self-Consistencyはその中から最も信頼性の高い答えを選びます。
さらに、ToTではAIが木構造のように思考を分岐させ、それぞれの症状に対する異なる可能性を深く掘り下げて比較し、最適な診断を選びます。
これにより、複雑な診断にも対応できるAIが実現します。
まとめ
AIを医療現場で活用するには、AIが出す1つの結果だけを信用するのではなく、複数の視点を持たせることが重要です。
Self-Consistencyは、AIに複数の推論経路を生成させ、その中で最も一貫性のある解答を選ぶことで、診断精度を高める方法です。
これにより、Greedy Decodingのように1つの推論経路に縛られるリスクを減らし、AIがより正確な結果を出せるようになります。
さらに、AIの推論プロセスを明示するChain of Thought(CoT)や、推論を木構造に分岐させて最適な解を探索するTree of Thoughts(ToT)を理解することで、AIの応用がより広がります。
これらの技術は、医療分野での診断支援においても重要な役割を果たしており、AIがより安全で正確な診断を提供する手助けとなるでしょう。
(Reference)
- Xuezhi Wang et al.(2022), “Self-Consistency Improves Chain of Thought Reasoning in Language Models” ICLR2023
- Shunyu Yao et al.(2023), “Tree of Thoughts: Deliberate Problem Solving with Large Language Models”
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