近年、AI技術の進化により、日本でも大規模言語モデル(LLM)の開発が進んでいます。
特に医療分野では、AIが医療データを解析したり、診断のサポートを行うことが期待されています。
しかし、日本発のLLM開発には大きく2つの方法があります。
ひとつはゼロからモデルを作り上げる「フルスクラッチ開発」、もうひとつは「既存の英語モデルを日本語で再調整(ファインチューニング)」させるアプローチです。
どちらの方法にもメリットと課題があり、初学者にも分かりやすく解説していきます。
日本発のLLM開発には2つの選択肢がある:フルスクラッチと英語モデルの活用
LLMとは?
まず、大規模言語モデル(LLM)とは何かを簡単に説明します。
LLMとは、膨大なテキストデータを使って「言葉の意味や使い方を学習したAI」のことです。
このAIは、会話や文章を理解し、人間の質問に応じたり文章を生成することができます。
医療分野では、AIを使って医療記録から重要な情報を抽出したり、診断のヒントを提供したりといった活用が期待されています。
LLMが医療にもたらす革命的な変化:現状とこれからの展望 | デイリーライフAI (daily-life-ai.com)
日本でLLMを開発する際には、次の2つの大きなアプローチがあります。
- フルスクラッチ開発
これは、AIをゼロから開発する方法です。
つまり、何もない状態からすべてを作り上げます。
この方法では、モデルが学ぶ内容や学習の進め方を自分たちでコントロールできるため、日本語や医療用語に特化したモデルを作ることが可能です。 - 既存の英語モデルを日本語で再調整する
この方法は、すでに英語で学習したAIモデルを活用し、それに日本語のデータを用いて再調整(ファインチューニング)し、日本語に適応させる方法です。
英語ベースの知識を持つAIを活用することで、一から学習させるよりも短い時間と少ないコストで日本語に対応させることができます。
フルスクラッチ開発のメリットと課題:高い制御性とコスト
メリット:柔軟なモデル開発が可能
フルスクラッチ開発の最大のメリットは、AIが学習するデータの選択に対して柔軟性があり、特定のニーズに応じたデータを使用できる点です。
例えば、医療分野であれば、実際の病院の診療データや、国内の医学論文などを使ってAIを日本語で一から訓練させることができます。
これにより、日本の医療現場に特化したAIが作れます。
具体例
もしあなたの病院で頻繁に使われる日本語の医療用語や略語があれば、それらをフルスクラッチ開発ではしっかり学習させることができます。
たとえば、「DM」は糖尿病(diabetes mellitus)を指しますが、このような略語や専門用語も、AIに細かく覚えさせることが可能です。
課題:膨大なコストと高度な技術が必要
しかし、フルスクラッチ開発には大きなコストがかかります。
データの収集、モデルの設計、AIの学習に使う大規模なコンピュータ資源(高性能なGPUやクラウドサービスなど)に多大な費用がかかります。
特に医療データはプライバシーの問題があり、適切なデータ管理やセキュリティ対策が必要です。
また、AIモデルを作るには高度な機械学習やデータサイエンスの知識が求められ、専門チームを組織する必要があります。
具体例
AIを訓練するには、数百万〜数億件の医療記録を用意し、それらをAIが読み込んで学習する必要があります。
例えば、「この症状の組み合わせなら、この病気が疑われる」というような膨大な知識をAIに教え込むためには、非常に多くのリソースが必要になります。
大手の研究機関や企業であればこれが可能ですが、中小の病院や個人で行うには負担が大きいです。
英語モデルの継続学習のメリット:コスト低減と技術的課題
メリット:コストを抑えて効率的に学習できる
既存の英語モデルを活用した継続学習では、すでに英語で学習済みのAIに日本語データを用いて再調整(ファインチューニング)します。
これにより、一からAIを訓練するよりもデータ量や学習時間を抑えることができます。
ただし、日本語の医療データを準備し、それに基づいて再学習させるためにもある程度のコンピュータリソースや費用がかかります。
そのため、全体的なコストは低くなるものの、ゼロではない点に注意が必要です。
医療分野の機械学習ファインチューニング入門: 基礎から実践まで | デイリーライフAI (daily-life-ai.com)
具体例
例えば、糖尿病に関する英語論文を元にしたAIは、すでに糖尿病に関する一般的な知識を持っています。
そこに日本語の医療データを追加すれば、日本の医療現場でよく使われる表現や治療方法についても学習させることができます。
これにより、日本語特有の知識も効率よくAIに教え込むことができます。
課題:日本語の表現や専門用語の課題
英語モデルを基に学習する場合、AIはもともと英語を理解するように作られているため、再学習によっても日本語の細かい表現やニュアンスの完全な理解には課題が残る場合があります。
特に医療の分野では、病気や症状の微妙な違いをAIが正確に把握する必要がありますが、英語ベースのAIではその部分がうまく対応できないこともあります。
具体例
英語では「headache」という言葉が広く使われますが、日本語には「偏頭痛」や「緊張型頭痛」など細かい分類があります。
英語モデルをベースにすると、このような細かい分類がうまく学習されない可能性があります。
これは医療現場での診断の精度に影響を与えることがあります。
また、既存の英語モデルには、利用できる条件を定めたライセンス契約があります。
たとえば、オープンソースライセンス(例えば、ApacheやMIT)のモデルは無償で利用可能ですが、商用利用や再配布に制約がかかる場合があります。
商用ライセンスでは、使用料が発生することもあり、医療分野での長期的な利用にはコスト面での注意が必要です。
まとめ
アプローチ | メリット | 課題 |
---|---|---|
フルスクラッチ開発 | ・柔軟なデータ選択 ・日本の医療に特化したモデルを作れる | ・コストや時間、技術的なハードルが非常に高い |
英語モデルの再調整 | ・コストを抑えて効率的に学習 | ・日本語のニュアンスを完全に理解できない場合がある ・ライセンスに縛りがでる可能性 |
日本発のLLM開発には、ゼロからモデルを作り上げる「フルスクラッチ開発」と、既存の英語モデルを日本語で再調整する「継続学習」の2つの方法があります。
フルスクラッチ開発は、柔軟なデータ選択と日本の医療に特化したモデルを作れるというメリットがある反面、コストや時間、技術的なハードルが非常に高いです。
一方、英語モデルの継続学習は、コストを抑えながら効率よく日本語に対応させることができるものの、日本語特有のニュアンスや専門用語の理解に課題が残ります。
医療現場でAIを導入する際には、どちらのアプローチが自分たちのニーズに合っているかをよく考える必要があります。
今後、AI技術がさらに進化することで、これらの選択肢も変わってくる可能性がありますが、現時点ではそれぞれのメリット・デメリットを踏まえた判断が重要です。
AIは医療を大きく変える力を持っています。
正しい道を選ぶことが、医療の未来を切り開く第一歩です。
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