Ashish Vaswani et al. (2017) “Attention Is All You Need” NeurIPS 2017 より引用し,一部改変
Transformerモデルは、自然言語処理に革命をもたらしました。
その中でも、Decoderの構造は特に重要です。
本記事では、初心者にもわかりやすく、TransformerのDecoderの基本構造と、Multi-Head Source-Target Attentionの仕組みについて具体例を交えながら解説します。
TransformerのDecoderとは?その基本構造を解説
TransformerモデルのDecoder(デコーダー)は、エンコーダー(Encoder)で処理された情報を基に、最終的な出力(例えば翻訳結果)を生成する部分です。
Decoderの基本構造は以下の通りです。
埋め込み層(Embedding Layer)
文章中の単語をベクトル(数値の集まり)に変換します。
これにより、コンピュータが単語の意味や関係性を理解できるようになります。
例えば、「猫」という単語が「[0.1, 0.3, 0.9]」のような数値に変換されます。
さらに、エンコーダとデコーダの両方でこの層が使用されます。
ポジショナルエンコーディング
単語の順番を保持するための工夫です。
文中の位置情報をベクトルに加えることで、単語の順序が反映されます。
例えば、「私は猫が好きです」という文の中で、「猫」がどこに位置するかがわかるようになります。
マルチヘッド自己注意機構(Multi-Head Self-Attention Mechanism)
文中の各単語が他の単語とどのように関連しているかを計算します。
これにより、文全体の意味を理解します。
例えば、「私は猫が好きです」という文で、「猫」と「好き」が密接に関連していることを見つけます。
デコーダでは、後続の単語の情報が流れないようにマスクが適用されます。
Source-Target Attention(ソースターゲットアテンション)
エンコーダーからの情報を利用し、デコーダーが出力を生成する際に重要な役割を果たします。
これについては次のセクションで詳しく説明します。
位置ごとのフィードフォワードニューラルネットワーク(Position-wise Feed-Forward Network)
一連の計算を行い、最終的な出力を生成します。
この層は、各位置に対して同じ完全に連結されたフィードフォワードネットワークを適用します。
具体的には、ReLU活性化関数を介した2つの線形変換から成ります。
これらのブロックが繰り返し配置されることで、TransformerのDecoderは非常に強力な言語モデルを構築します。
Multi-Head Source-Target Attentionの仕組みと役割
次に、Source-Target Attentionについて詳しく見ていきましょう。
Attentionメカニズムの基本
Attentionは「注意を向ける」という意味ですが、ここでは重要な情報に重点を置くことを指します。
Attentionは、クエリ(Query)、キー(Key)、バリュー(Value)という3つの要素を使って計算されます。
クエリ(Query)
現在注目している単語のベクトルです。
例えば、デコーダーが「好き」という単語を生成する際、そのクエリは「好き」に対応します。
キー(Key)
文章内の他の単語のベクトルです。
エンコーダーからの出力がキーとなります。
例えば、「私は猫が好きです」という文全体の情報です。
バリュー(Value)
キーに対応する値です。
キーと同じくエンコーダーの出力がバリューとなります。
このプロセスにより、クエリとキーの類似度を計算し、その類似度に基づいてバリューを加重平均します。
これにより、重要な単語やフレーズに注意を向けます。
Source-Target Attentionとは?
Source-Target Attentionは、エンコーダーの出力(Source)を基に、デコーダーの出力(Target)を生成する際に使用されます。
具体的には、エンコーダーの出力をキーとバリューとして使用し、デコーダーのクエリと比較します。
例えば、「私は猫が好きです」という文の情報を基に、「I like cats」という翻訳結果を生成する過程です。
Multi-Head Attentionの利点
Multi-Head Attentionでは、複数のAttentionヘッドが独立して計算を行います。
これにより、異なる視点から情報を捉えることができます。
例えば、1つのヘッドが「私は」と「好き」に注目し、別のヘッドが「猫」と「好き」に注目することで、より豊かな情報を得られます。
実際の計算プロセスの流れ
- クエリ、キー、バリューを入力として受け取る
- 各ヘッドが独立してAttentionを計算
- 各ヘッドの出力を連結
- 連結された出力を最終的な線形変換を通してAttention出力として使用
この一連の流れにより、モデルはより精度の高い出力を生成することができます。
機械翻訳におけるTransformerの応用例とその効果
最後に、Transformerの実際の応用例を見てみましょう。
機械翻訳への応用
例えば、英語から日本語への翻訳を考えてみます。
エンコーダーが英語の文章を処理し、その出力をデコーダーが受け取り、日本語の翻訳結果を生成します。
高精度な翻訳を実現する理由
高度なコンテキスト理解
文中の単語の意味や文脈を深く理解します。
例えば、「I like cats」という文を「私は猫が好きです」と自然な日本語に翻訳できます。
長距離依存関係の処理
文の前半と後半の関係も正確に把握します。
例えば、「Although it was raining, we decided to go for a walk」という文を「雨が降っていたけれど、私たちは散歩に行くことにしました」と適切に翻訳できます。
他の応用例
要約生成
長い文章を短く要約するタスクにも利用されています。
例えば、ニュース記事を要約して短い説明文を生成します。
テキスト生成
新しい文章を生成するタスクでも高い性能を発揮します。
例えば、チャットボットが自然な会話を生成する際に使用されます。
まとめ
TransformerのDecoderとMulti-Head Source-Target Attentionについて解説しました。
Decoderは、Encoderで処理された情報を基に最終的な出力を生成する重要な役割を持ち、Source-Target Attentionはその中核となるメカニズムです。
これらの技術により、Transformerモデルは機械翻訳などのタスクで高精度な成果を上げています。
(Reference)
Ashish Vaswani et al. (2017) “Attention Is All You Need” NeurIPS 2017
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