ネット上で「この投稿、消してほしい」と思ったこと、ありませんか。
2025年4月から、日本ではこの“投稿削除請求”に対する制度が強化されました。
ITパスポート試験のシラバスにも、Ver.6.3 → Ver.6.4でこの改正が反映されています。
本記事では、IT・法律初心者でも誤解しにくいよう、具体例や注釈を交えながら改正内容を整理してお伝えします。
シラバス上の表記で“変化”をおさえよう
まず、シラバス Ver.6.3 と Ver.6.4 でどのように記載が変わったか確認します。
- Ver.6.3
プロバイダ責任制限法(発信者情報開示請求,送信防止措置依頼 ほか) - Ver.6.4
情報流通プラットフォーム対処法(発信者情報開示請求,送信防止措置依頼,侵害情報の削除手続の迅速化および運用状況の透明化 ほか)
この変化のポイントは、法律名の変更に加え、「侵害情報の削除手続の迅速化」「運用状況の透明化」という文言が新たに入ったことです。
ただし、法律の中身がまったく別物になったわけではなく、旧制度を土台に強化・追加された部分がある改正と捉えるのが正しい理解です。
改正の背景・目的
制度改正には「なぜ変えたのか」が理解を助けます。以下は改正の背景です。
(1)ネット上での権利侵害投稿が増加
SNSや掲示板などで名誉毀損・プライバシー侵害・誹謗中傷といった投稿が拡散し、被害の深刻化が問題化していました。
旧制度では、削除請求しても対応が遅い・判断基準が不透明・通知がない、などの不満が多く寄せられていました。
(2)プラットフォーム事業者にも責任を明確化したい
現代の情報流通は、SNSや動画プラットフォーム、掲示板といった “プラットフォーム事業者” が中心になっています。
そのため、こうした事業者にも一定の法的義務を課す必要性が高まりました。
この方向性を反映して、名称変更とともに制度強化が行われたと理解できます。
改正前 → 改正後で変わった主な制度(強化・追加点)
以下に、旧制度(プロ責法)から改正後(情報流通プラットフォーム対処法=情プラ法)で変わった/追加された、主要な制度をまとめます。
ITパスポート受験者にとって押さえておきたい点を中心にしています。
| 項目 | 旧制度(プロ責法) | 新制度(情プラ法)での強化・追加点 | 具体例・補足 |
|---|---|---|---|
| 対象事業者の拡大 | 主にプロバイダ・通信事業者・サイト運営者 | 利用規模が大きな SNS や掲示板運営者も対象の可能性(特に指定を受けた場合) | 有名 SNS 会社などが対象になる可能性 |
| 指定制度 | なし | 一定の条件を満たす事業者を「大規模特定電気通信役務提供者」として指定できる制度 | 指定されると追加義務が発生 |
| 削除請求対応の迅速化 | 請求があれば「適切に対応」する努力義務的 | 調査・判断を一定期間内に行う義務が規定される | 申出を受けた投稿を速やかに判断する必要性が高まる |
| 専門体制整備 | 専門員制度は明文化されていなかった | 「侵害情報調査専門員」の選任義務を導入 | 権利侵害判断に詳しい担当者を置く義務 |
| 通知義務(申出者への通知) | 削除後通知はあったが一部不十分 | 申出者に「削除する/しない判断」と「その理由」を通知する義務 | 削除しなかった場合でも理由を説明する義務が加わる |
| 運用の透明性・公表義務 | 削除基準・対応実績の公表は任意的 | 削除基準や運用ルールの公表義務、削除実績・対応状況の年次公表義務 | 利用者も判断基準を事前に知ることが可能に |
| 罰則・行政処置強化 | 違反処分は限定的 | 総務大臣の報告徴収、勧告、命令、罰金制度が導入 | 最大1億円程度の罰金など罰則強化を含む |
3-1.削除請求対応の迅速化(義務化ではない点に注意)
例:掲示板で誹謗中傷された C さんのケースを想像してみましょう。
C さんは掲示板に自分の名前を使って悪口を書かれた投稿を見つけ、「削除してください」と申請します。
改正後では、特に大規模プラットフォーム事業者に対し、申出を受けた投稿について一定期間内に調査・判断を行う義務が規定されます。
ただし、法律上はすべての投稿を無条件に削除すべきとはされておらず、運営者には判断余地が残されている点に注意が必要です。
法律条文(第26条等)には「削除等を行うことができる」という表現が使われています。
3-2.通知義務と通知期間(例外規定含み)
改正法では、申出を受けた事業者は、原則として申出を受けてから 14 日以内(総務省令等で定める期間)に、申出者へ「削除/不削除」の判断とその理由を通知する義務を負います。
ただし、以下のような場合には通知を遅らせてもよい例外規定があります:
・発信者に意見照会が必要な場合
・専門員調査が必要な場合
・その他やむを得ない事情がある場合
3-3.対象事業者拡大はすべて義務化ではない点に注意
改正法で、通信業者だけでなく SNS/掲示板運営者にも対象を拡大する方向が示されました。
しかし、すべてのプラットフォーム運営者が即対象になるわけではありません。
改正法では、特に 「大規模特定電気通信役務提供者」 として指定された事業者が主な義務負担の対象とされます。
そのため、規模が小さいサービスは直ちに全義務を負うわけではない点を強調する必要があります。
3-4.罰則・行政処置の強化
改正法では、違反があった場合に総務大臣が 報告徴収 → 勧告 → 命令 → 罰金 といった行政処置を行える規定が導入されました。
具体的には、義務不履行に対する命令制度や罰金制度(最大1億円程度など)など、実効性を伴う罰則の制度化が含まれています。
受験者が特に押さえておきたいポイント
たくさん制度が変わりましたが、試験合格を目指す立場で押さえておきたい要点を整理します。
✔ 覚えておきたい法律名・キーワード
- 情報流通プラットフォーム対処法(旧:プロバイダ責任制限法)
- 侵害情報の削除手続の迅速化
- 運用状況の透明化
- 侵害情報調査専門員
- 申出者への通知義務
- 公表義務(削除基準・実績・運用状況)
- 大規模プラットフォーム事業者
- 旧制度から継続出題:発信者情報開示請求・送信防止措置依頼
✔ 試験で問われる可能性が高い視点
- 法律名変更とその背景(なぜ“プラットフォーム”が入ったか)
- 追加された義務(迅速化、通知、透明性など)
- 削除義務がすべて強制化されたわけではないという注意点
- 対象事業者拡大の方向性(ただし即義務化ではない点)
- 罰則・行政処置の強化(報告徴収・勧告・命令・罰金)
これらをキーワードごとに一覧化し、「名称 → 背景 → 変更点 → 注意点」の流れで理解できるよう整理すると記憶に残りやすくなります。
注意・補足:制度運用と限界
- すべての投稿を無条件に削除義務化されたわけではなく、運営者には判断余地が残されている点。
- 削除基準や運用ルールの詳細は、総務省令やガイドラインなどで定められており、これらが実務運用を左右する点。
- 指定対象である「大規模プラットフォーム事業者」の選定・認定手続きは段階的に進められる可能性がある点。
- 運用段階で「基準の曖昧さ」「表現の自由との調整」「誤削除リスク」などの実務的課題が残る点。
まとめ:迷わず学習を進めるために
シラバス Ver.6.4 で登場する 情報流通プラットフォーム対処法 は、旧制度(プロ責法)をベースに制度を強化・追加したものと理解するのが適切です。
試験レベルで押さえておきたいのは、名称変更・改正目的・追加義務(迅速化・透明性・通知など)・対象拡大・罰則強化 といった大枠です。
ただし、「すべて削除義務化」「すべてのプラットフォームが即対象」など過度な断定表現は避け、慎重な言い回しを用いることが大切です。
この改正によって、利用者の立場でも「削除請求を出した際、なぜ削除された/されなかったか通知を受けられる可能性」が高まる制度改善の意義があります。
最後に、この内容をもとに例文を作ってみたり、過去問で「名称変更+追加義務」が出題されていないかチェックしたりすることで、記憶が定着しやすくなるでしょう。
(補足)
なお、改正法の公布日は 2024年5月17日、施行日は 2025年4月1日と定められています。
当初は 5月施行案もありましたが、最終的に前倒しで 4月1日施行となりました。
この点を押さえておくと、法律名や日付に関するミスを避けやすくなります。


コメント